2021年4月19日月曜日

他責NG ~No scapegoating~

私は生来弱い人間で、プロジェクトが失敗すると、自分のせいでは無く、上司のサポートが無かったからだ、とか部下が間違いを犯したからだ、という思いがまず最初に頭をよぎる人でした。実際には、部下の管理を怠り、上司への的確な報告を怠っていた自分の責任なのに。米国の会社だったから、と言うこともあるかも知れませんが、当時私が所属していた組織の中でも、多くの人たちがそのような思考を持っていたように思います。That's not my fault -  景気が、部下が、組織が… 常に他に意識を向けさせ、自分の責任を曖昧にする人が多く、それをどれだけ上手に出来るかが処世術というか、昇進へ必要な能力のように見えました。しかし、腹の中ではそれが正しいことのように思えず、私はその組織を去り、自分で経営をする道を選びました。

他責NG という言葉は、 弊社のマネージャーが、前職の会社で大切にされていた言葉だと言って教えてくれました。「誰かのせいで...」「何かのせいで...」「時間が無くて...」と他人事のように話さず、与えられた条件の中で何が出来るかを考え、行動すること。それがその会社の文化だということでした。良く見ていると、彼は失敗に対して言い訳をしません。与えられた予算で何が出来るかを自分で考え、私に報告をします。そのプロジェクトでどのような作業が必要かを書き出し、部下に説明をします。進捗を確認しながら、適時お客様に報告をします。分からないことがあれば、自分で調べ、それでも分からなければ、私に的確な質問をします。プロジェクトにオーナーシップを持ち、上下左右、全体を見渡しながら仕事を進めて行きます。プロジェクト自体を自分のものとして捉え、与えられた環境の中で、最大のパフォーマンスを発揮することを目標としているのです。仕事を任せていて安心感があります。人として、プロフェッショナルとして、素晴らしい、と私はそれをいつも感心して見ています。

私は、若い頃から「誰も仕事を教えてくれない。」、歳を取ってからは「誰も経営を教えてくれない。」と、いつも不平不満を心に抱いていました。学生時代まで遡ると、お金が無いことが不満でした。渡米後、資金確保に時々日本に帰ったので、大学卒業に6年を費やしました。お金が無いのでクーラーもついていないポンコツ車を乗り回し、女の子をデートに誘うにもかっこ悪いのが嫌でした。お金持ちの家に産まれていたら、とたまに恨めしく思うことがありました。社会人になった後のある年、実家に帰って、父親が会社に行く姿を見ました。ペラペラのスーツに合皮の革靴を履いていました。あれは一体一着いくら、一足いくらなんだろう、もう少し良いものを買えばいいのに…と後姿を見送りながら思った直後に気づきました。実際には、お金が無かった訳では無いと思います。ただ、私の留学に何百万円も使い、さらにまだ弟たちも大学に行ったので、自分が稼いだお金は、すべて子供たちのために使っていたのです。その時に、初めて親の偉大さに気づきました。自分が欲しい物も買わず、節約に節約を重ねて自分たちが出来る限り、大学の費用を捻出してくれていたのでした。もし親の協力が無ければ、私も卒業に6年でなく、8年は掛かったことでしょう。それまで、自分が不満を持っていたこと自体が、恥ずかしくなり、心から感謝の気持ちを持った瞬間でした。

マネージャーからは、オーナーシップを取る勇気、責任を取る痛み、 周りの人から学ぶ謙虚さ、そして素晴らしい部下が会社にいてくれることへの感謝を学びました。父親からは、自らを顧みず、周りの人に尽くす愛情を学びました。

オーナーシップ、責任、反省、謙虚さ、愛情、時に痛み。他責NGを自分のものにするためには、それだけの覚悟と努力が必要です。私自身、これからも何度も何度も、失敗を繰り返していくことかと思います。しかしその度に、他人の責任にすることなく、自分がその環境で何が出来たのか、本当にそれが自分の100%だったのか、常に自分に問いながら進んで行きたいと思います。

最後に、多くのことを教えてくれた父親は、残念ながら引退前に亡くなってしまい、子供たちのために働き詰め、質素な生活を送っただけで終わってしまいました。私は結局、親孝行をしてあげることは出来ませんでしたが、父は、それだけの愛情を子供たちに残してくれました。社員たちからしたら本当に頼りない社長に見えるかも知れませんが、父がしてくれたように、社員全員を愛し、これからも少しでも、皆が成長できる会社を作ることに、全力を傾けていきたいと思います。

2021年3月16日火曜日

怒るということ ~ Turn Anger into Positive Energy~

世の中には、色々な評価基準があり、それに達すると評価が良く、それに達しないと評価が悪くなります。正式な評価基準で無くても、プロジェクト毎に思ったような成果を出すと喜び、出せないとがっかりします。仕事を続けていると、小さな一喜一憂が毎日のように繰り返されていきます。失敗して上司に怒られるようなこともあるでしょう。

ホンダ総研の本田宗一郎氏は怒るとスパナが飛んで来たとか、JAL再生中の稲盛和夫氏は怒っておしぼりが飛んで来たとか、仏門で修業をされ、80歳を超えた名経営者でもなお、怒ることがあるようです。明確なビジョンを描き、仕事への情熱が強い人であればあるほど、上手く行かなかった時には感情的になるものです。しかし、その時に凡庸な経営者と大きく違うのは、怒りに愛情があることだと言います。ただ上手くいかないから怒るだけでなく、怒りをその部下の成長へ向かうエネルギーに変換して「気づけ、成長しろ、出来るようになれ。」と怒りの中で、その部下の成長を心から願っているのです。だからこそ、怒った後でもその部下の肩を抱き、「次は頼むぞ。」と出来るのです。その愛情があるからこそ、組織が成長発展していくのです。

経営者になって、部下を思う上司に怒られることって、どれだけ幸せなことだろう、と思うようになりました。失敗をしたら怒ってくれる上司がいて、自分の成長を見守ってくれる。本気で努力をする部下を見捨てない。そんな上司のもとで働けたら、どれだけ幸せなことだろう、と思います。私には長いこと上司がいないので、自分の失敗は自分で背負うことから始まり、部下の失敗も自分で背負うようになりました。そして経営を続けるにつれ、段々と自分の失敗は、自分一人のものではなく、社員全員に影響を及ぼすことに気づくようになりました。自分が未熟なばかりに失敗することがあれば、私は社員全員に申し訳なく思います。上司一人、顧客一社に申し訳ないだけではありません。一つの失敗の重みが、何倍、何十倍にも感じるようになるのです。これが、経営者の重責なんだな、と経営に真剣に取り組めば取り組むほど、分かるようになってきました。

上司に怒られるのは幸せなことです。その上司が本気で部下のことを思っていればいるほど、幸せなことです。怒られて悔しい時は、その悔しさを成長のエネルギーに変えてください。理不尽に思う時は、頭を整理して、正面から上司と話してより良い道を見つけて行ってください。怒りも、悔しさも、辛さも、すべてエネルギーです。そのエネルギーを成長に使うのか、ただ不満を持つだけなのかは、その人の心次第です。

最後に、未熟な私のような経営者のもとで働く全社員に心から感謝を伝えたいと思います。私は、絶対に努力をする社員を見捨てず、怒る時も社員が成長することだけを望んで仕事を続けていきます。本当に経営者としてだけでなく人としても足りない所だらけですが、私の失敗を受け入れ、時には上司に諫言をする社員たちに、心から感謝です。

2021年2月12日金曜日

仕事を好きになる - To Love Your Work

 先月、たまたまつけたテレビジャパンで、ゴミ収集員の密着取材をしているのを見かけました。横浜でゴミ収集員をされている、岳裕介さんという方でした。「俺はゴミを夢だと思っている。」と冒頭で彼は堂々と話していました。私の幼馴染もゴミ収集員をしていますが、彼に仕事の面白さ、やりがいを聞くことは、何となく避けていて、私はそこに後ろめたさを感じていました。これは見ない訳にはいかないと思い、柄にもなく真面目なテレビ番組に見入りました。

トラックから乗り降りすること一日400回、ゴミ収集の仕事は身体を酷使する上、毎日同じことの繰り返しです。深夜に街が寝ているうちに仕事をすることが多く、直接人から感謝をされる機会がほとんどありません。その上子供から「くせーなー」と傘で車を突かれたこともあったり、大学生の集団から「何だよ、くせーな、こんな所通るなよ。」となじられた時には、岳さん自身「周りから見たら臭い仕事なんだな。」「要は仕事の底辺なんだな。」と、自分の仕事に誇りを持てず、ただ給料を貰うためだけに会社に行き仕事をする、抜け殻のような社員になってしまったそうです。

そんな単調な日々が一年ほど続いたある夏の日、ゴミ箱に近づくと、その横に、お菓子と冷たい飲み物が置いてあり、「いつもありがとうございます。ほんの気持ちですが、召し上がってください。」という手紙が添えてあったそうです。その場から動くことが出来なくなった岳さんは 「自分を必要としてくれる人がいる。この仕事を卑下し、見下していたのは自分だ。逃げずに、自分自身を変えたい。変えていかないと周りも変わらないし、恥ずかしくないことをしなきゃいけない。」 そう気づいたそうです。それから、彼は収集員の仕事の範疇ではない散らかった小さなゴミを納得するまでかき集めたり、仕事が終わった後も毎日残って臭いが沁みついた車を磨き上げたり、分別の出来ていないゴミを出す人に直接会いに行き「街を綺麗にする協力をしてほしい。」とお願いをしたりと、朝みんなが起きた時に街が綺麗になっていること、そしてみんながこの街で気持ちよく生活出来るようになることが自分の仕事の意義だと気づき、日々小さな努力を重ねていきます。それでも心が折れそうになった時は何も考えられなくなるまでゴミ箱を抱えて走り、中途半端ではなくとことんやり切ったそうです。そんなことをしているうちに、高校中退の元不良が、今は日本で最もゴミが多い街で50人のチームを束ねるリーダーとして活躍し、遂にはテレビ取材を受けるまでに至ったのでした。

世の中には、プロ野球選手やお医者さんのように、人々を驚嘆させたり、直接お客様からありがとう、と感謝される仕事があります。逆に、ゴミ収集員のように、1000回仕事をして、1回感謝されるかどうか、という仕事もあります。全ての仕事には意義がありますが、現実には人気のある職業とそうでない職業は存在し、身体能力や勉学の能力などで、就ける職業とそうでない職業があります。プロ野球のように、能力の高い選手が更に鍛錬を積んで見せるプレイは人の心を動かします。しかし、例え能力が高くない人であっても、あらゆる職業において本気で仕事に取り組む人は見る人の心を動かすものです。私が岳さんを凄いと思ったのは、一年でたった一回「いつもありがとうございます。」と感謝されたことを心に刻み込み、自分の街を綺麗にする、その意義のために全力を尽くし続けていることです。自分の持ち場以上の仕事をこなし、誰も気づかないかもしれない中、ただ自分が住む街を綺麗にし、自分を蔑むかも知れない人たちまで気持ち良く過ごせるようにしたい、その志のために全力を尽くす、その姿に感銘を受けました。

多くの皆さんは既に仕事が好きかも知れませんが、実は私も岳さんのように、元々仕事が面白いとは思っていませんでした。 そんな私や岳さんが、仕事を好きになるまで行ったことに、3つの共通点を見つけました。まず初めに、仕事の意義を理解することでした。自分の仕事が、どのように社会の役に立つのか、それが理解出来れば、自分の仕事に誇りが持てるようになります。次に、自分の仕事が上手く行った時に、周りの人々が喜ぶ顔を想像することでした。弊社はWow! your clientと言いますが、大きなサープライズでなくても、どうやれば少しでも相手の予想を超えて、少しでも多く相手に喜んでもらえないものか、想像し、実行してみることだと思います。その時の、相手の表情まで想像出来れば、きっとやってやろう、という気になるのでは無いでしょうか。最後に、何より本気で仕事に取り組むことでした。それこそ働いている時は集中しているあまり、周りの人がこの人は大丈夫か、と思うくらい本気で働いてみることです。適当なやっつけ仕事で仕事が面白くなることは絶対にありません。とにかく仕事をしている時は、本気で働いてみることだと思います。

仕事が好きになれば、更に仕事に集中することができ、仕事自体が段々と苦では無く、楽しくなっていきます。そして誰かから感謝をされるようなことがあれば、素直に喜び、そんな人が一人でも多く増えるように努力をしていく訳です。お客様のファンが増え、社内でファンが増えれば、きっと仕事はさらに面白くなるはずです。

経営者の仕事は、仕事の意義、お客様の喜び、仕事の面白さを伝え、常に仕事に本気で取り組み続けることだと思います。私が妥協した瞬間、全社員の気が抜けてしまう訳ですから、そういう意味では一切気を抜くことの出来ない職業だと思います。しかし、私が自分の仕事を好きになり、本気で取り組めば取り組むほど、少しずつ会社が良くなり、社員の士気が高まり、成長していくのを感じます。経営者の責任が嫌で嫌で押しつぶされそうになった時期もありましたが、本当に素晴らしい職業に就けたものだと今は思います。そして今は岳さんと同じように、私もこの仕事に誇りを持ち、この仕事が好きだと、堂々と言えるようになりました。私は社長ですが、社員も一人一人、違う持ち場があります。社員一人一人全員が、自らの仕事に誇りを持ち、この仕事が好きだと言えるよう、これからも仕事の意義、お客様の喜び、仕事の面白さを社員全員に伝え続けたいと思います。


2021年1月18日月曜日

リーダーの根底にあるもの - The Basic Requirements of Being a Leader

米国軍隊には、Medal of Honorと言う名誉勲章があります。受章者の中には、三方向からの敵の銃撃にさらされながらも友軍負傷者の救出に向かい、被弾をしながらも救出に成功し帰って来た者、右腕を失いながら左腕一本で友軍のために戦い続け、任務を全うした者、友軍の撤退を助けるため、自らをおとりにした者など、歴戦の勇士の名が連なります。課された軍務に収まらず、敵の銃弾の嵐の中、自らの命を顧みず、仲間のために果敢に行動した兵士に贈られる軍人としての最高栄誉です。この話は、弊社の元米国陸軍軍曹のマネージャーから聞きました。彼は一言、「彼らは本当に勇敢な人たちだ。」と言いました。私も世の中には、真の勇気と胆力を持った人がいるものだ、と思いました。普段の私たちの生活の中で、自分の命を失うリスクを冒してまで他人を助けるような尊い行動をとる人を見ることはほぼありません。自分のため、お金のためではなく、純粋に仲間のために自らの犠牲も厭わないような人物、もしそのような上司、部下がいたならばどれだけ心強いだろうか、と思ったものです。かたや、この元軍曹は、普段口数は少なく、穏やかで、どちらかと言えば地味で目立たない人物です。仕事は出来ましたが、何か飛び抜けて才能がある訳でもありませんでした。何年も前にシニアスタッフに昇進した時も、特に目立って優秀というわけではなく、私は何時もそこそこの評価を彼にあげていました。Medal of Honor受章者とはほど遠い人物だと思っていました。

そこから数年間、更に彼を見てきました。彼は天才ではありませんが、常にコツコツと努力をし、成長を続けます。そして自分の部下が困った時は、彼は確実に手を差し伸べ、進むべき方向を示してあげます。お客様が困った時は、多少無理な話でも、最後まで我慢強く話を聞き、何とか役に立つよう、努力をします。私が困って彼に連絡すると、忙しい中でも彼は私のために時間を作り、一緒に仕事を創り上げてくれます。彼は自分の周りの人に対し、どんな時も何時も傍で手を差し伸べていたのです。特に大きな見返りがある訳でも無く、ただその時に "Thank you"と言われて終わるようなことなのに、その一つ一つを彼は私の隣で13年間、毎日積み重ねてきました。

人間が本質を見せるのは、何も戦場だけでは無いのでは無いか?そう視点を変えて考え始めてから、ようやく素直に物事が見えるようになりました。会計事務所は命を賭けた戦場では無いかも知れませんが、激務になることはあります。そんな中、思い返せば彼は常に自分よりも部下、自分よりもお客様、自分よりも上司のことを思い、日々仕事を続けてきました。その信念に一点の曇りも無く、かと言って誇張することも無く、ただ淡々と自分の責務を果たしてきました。13年彼と一緒に仕事をしてようやく、ああ、これがリーダーの本質か、と気付きました。そこが戦場であろうが職場であろうが、仲間の安全、成長を自らの使命と信じ行動を起こすこと、その本質に何も違いはありません。もしも私と彼が一緒に戦場に行って、私が被弾したとしたら、私は彼が命を賭けて助けに来ると確信しています。それは彼とこれまで一緒に様々なことを乗り越えてきた中で、彼が自己犠牲を厭わず、周りを助ける人間だと私は知っているからです。それがリーダーの本質であり、Medal of Honorの受章者は、それを戦場で目に見える形で発揮しただけに過ぎず、その行動を起こすポテンシャルを持っている人は、私たちの周りに存在しているのです。

たまたま私が彼の上司として13年間働いてきましたが、部下であるからリーダーではない、ということではありません。私は著名なリーダーばかりに気をとられて、自分の身近にこれだけ偉大なリーダーがいることに気づいていなかったのです。リーダーには多くの形がありますが、私はその根底に必要なものは、周りの人の成長を願い、チームの成功を願い、そこに責任を持ち、時には人生を賭けることすら厭わない覚悟なのでは無いか、と思い至りました。自分の責務に使命感を持ち、それに沿って一つ一つを積み重ねていくことこそが、周りの人を信頼せしめ、その人をリーダーたらしめるものだと思います。

自分の周りに、彼のようなリーダーがいることを誇りに思います。これはほんの一例ですが、他の部下たちも、素晴らしいマネージャー達の背中を見て、これから順調に成長していくことかと思います。私自身も、彼のように、人から信頼されるリーダーでなければならないと、常に自分を戒めています。