2020年12月12日土曜日

能力を未来進行形で捉える - Project Our Abilities into the Future

大統領選挙の結果がバイデン氏の勝利でほぼ確定しました。報道ではよく、今回の選挙で国の分断がさらに明確になった、と言われます。人種、産業、地域、現状アメリカが抱える問題を見て悲観的になる人は多いようです。

こんな時、思い出す演説があります。

「あなたの国があなたのために何をしてくれるかを問うのではなく、あなたがあなたの国のために何ができるかを問おう。アメリカがあなたのために何をしてくれるのかを問うのではなく、われわれと共に人類の自由のために何ができるかを問おう。」1961年のケネディ大統領のスピーチが未だに人々の記憶に残るのは、現状だけを見て不満を抱き、政府が何かをしてくれるのを待つのではなく、人類の自由というアメリカ建国の理念のために、自分たちで何が出来るのかを、問いかけているからです。富や名声といった結果を先に求めるのではなく、理念を追求した結果、富や名声がついてくることを体現する国家でありたい、その志こそが、アメリカを大国に押し上げたのです。

現状の不満ではなく理念を追求する姿勢は、会社にも同じことが言えると思います。売上が低い、製品が良くない、社員の能力が低い。。。会社の現状を見て不満を抱く人たちは多いのではと思います。しかし、私は本質はそこではない、と思っているのです。アメリカと言う強国は250年前には存在していませんでした。アップルも、最初はガレージの中から起業しています。売上も、製品も、社員もいない、ガレージの中のジョブスを見て今のアップルを連想した人はいなかったでしょう。それでも、「Think Different」と言う理念を掲げ、彼の理念に賛同する社員を集め、彼らが作った他と違う製品が、人々を驚嘆させる未来を夢見て成長していったのです。

社員にしても同じことが言えます。現状を見て、社員の能力や姿勢に不満を持つこともあるでしょう。そういった現状の不満への対処も必要かもしれませんが、本当に大事なのは、その社員の未来の成長を願い、それに必要な環境を、話し合いながら築き上げていくことでしょう。私も若い頃、未熟で能力の足りない私に不満を漏らす上司、逆に私を使い倒したい上司は多くいましたが、私の成長を考え、私の未来のためにアドバイスをくれた上司は数少なかったものです。しかし10年以上経ってなお、私はその数少ない上司のことは鮮明に覚えています。私は評価の本質はここにあるのではと思います。

TOPCという会社は、「社員の現状」について評価するだけでなく、「社員の未来の夢、成長した姿」を共有し、どうやったらその未来にたどりつけるか、一緒に考えることが出来る会社でありたいと思っています。

そのためには、まずは経営者である私自身が会社の現状や、社員の現状に不満を持つのではなく、会社の未来、社員の未来に対して「自分が」何を出来るかを真摯に考えなければなりません。そして社員の成長を会社の誰よりも願い、会社の誰よりも努力する存在でなくてはなりません。未熟な経営者なのですが、それでも社員の成長につなげるには何をすれば良いのかを常に考え、常に行動を起こしています。

今のアメリカを見れば問題だらけの国に見えるかと思います。しかし250年前には参政権を持たないイギリスの植民地だった国が、1776年に独立し、1863年に奴隷解放を宣言、1920年に女性に、1965年には黒人に投票権を与え、ゆっくりではありますが、「自由と平等の国」に少しずつ近づいています。現状を見れば足りないことだらけでも、着実にこの国は理念に近づいているのです。悲観する必要はなく、ただもっと正しい理想の国家へ向かうよう、国民一人一人が少しずつ努力を続ければ良いのです。

TOPCも、今はまだ未熟でも、この会社に来てくれた社員のために、私は社員の未来の能力を信じ、社員の努力の結実を信じ、会社の未来の成功を誰よりも信じています。今は能力が足りなくても、努力を続ければ、未来の私たちには、今以上に能力が備わっているはずです。私は現状を見て落胆することなく、私たちが成し遂げるであろう未来の会社の姿を見て努力を続けます。だから弊社は「能力を未来進行形で捉える - Project our abilities into the future」を座標軸に据えているのです。

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あとがき

上記のコラムですが、今回のトランプ大統領の敗戦を受けて、ケネディ大統領の演説を思い出し、書いたものです。トランプ大統領の敗因は色々あると思いますが、一つに「America First」のスローガンがあると思います。アメリカが一番である、ということは結果であり、理念ではありません。アメリカが一番だ、アメリカを優先する、という主張は、他国を平等に扱っているとは言い難いのです。そうではなく、どうしてアメリカが強くなくてはならないのか、建国の理念に立ち返って民衆に説いていれば、選挙結果は違ったのかも知れません。ビジネスにおいても、利益は結果であり、人は数字よりも理念を信じて行動を起こすものだと思っています。社員に会社の理念を話し、共有し、共に進むことが出来れば、きっと会社は強くなるはずです。そんなことを、ふと思い、弊社の理念と合わせて、上記のコラムを書いた次第です。

2020年11月6日金曜日

夢と共に進む - Grow with Your Dreams

10年ほど前でしょうか、スペースXのロケットが爆発するシーンをテレビで見ました。それはスペースXの初めてのロケット発射実験だということでしたが、その後も、またその後も失敗、爆発を続けるのをニュースで見ました。

イーロン・マスクがスペースXを創業した時、多くの人がお前はおかしいんじゃないか、と言ったそうです。ある友人は、ロケット発射が失敗し爆発するビデオを集めて、それがどれだけリスクの高い事業なのか、マスクに理解させようとしたそうです。それにも関わらず、マスクはスペースXを創業します。彼の失敗を予想したのは、一般人だけではありません。人類で始めて、月面着陸した宇宙飛行士であり技術者のニール・アームストロングですら、マスクの失敗を予想していました。実際に彼は大小の失敗を重ねます。最初の3回のロケット発射は失敗でした。

マスクには、色々な欠点があるそうです。気分屋で、意に沿わない社員を瞬間的に解雇したりすることもあったそうです。普通であれば、そんな社長に人は集まりません。マスクは天才かも知れませんが、私たちは多くの天才が経営に失敗しているのを知っています。スティーブ・ジョブズも、一度はアップルを追い出されたことを、私たちは知っています。しかし、それでも人々は集まり、彼らは成功を収めています。それがなぜか、私には長い間、不思議でなりませんでした。

2年ほど前、何かの拍子にマスクのインタビューと、4回目のロケット発射成功までの軌跡を描いた映像を見て、私はマスクの信念を知りました。Being multi-planet species, being out there among the stars, is important for the long-term survival of humanity.  彼の信念は、彼がスペースXを起業し、大儲けをすることではなく、人類の未来の成長発展のためには、宇宙に飛び出すことが不可欠だと信じているのです。アームストロングが彼の計画に反対だと伝え聞いた時、マスクは涙を浮かべながらそれでも「I never give up.」と言う言葉を残していました。自分のヒーローが反対する、それでも彼は挑戦し、4回目にロケット発射に成功します。

夢の大きさ、そして信念の強さ、それがマスクをマスクたらしめている要因だと確信しました。そして2年前、自分の夢が何なのか、再度考えてみました。「人と会社を強くする」「世界一働きたい会計事務所を作る」弊社のミッションとビジョンをそう掲げていました。私は、社員に成長し、お客様に価値を与えることが出来るようになって欲しいと昔から思っていました。しかし、当時、私の思いとは裏腹に、社員の意思はバラバラ、まとまりのある状態ではありませんでした。私はどうしても、自分の夢を社員と共有し、社員自身も夢を持つことが出来る会社にしなければならないと思いました。自分の残りの人生を、その夢のために使う決断をしました。趣味でやっていた週末の草野球も、始めていたゴルフのレッスンも辞め、社員が成長し、幸せに感じるためにはどうすれば良いのか、ひたすら考え、ビジョンを描き続けました。社員には、私が彼ら・彼女らに成長し、その成長に喜びを感じて欲しいことを、何回も何回も、事あるごとに語り続けました。有志を募っては、金曜日の夜、酒を飲みながら会社はどうあるべきか、語り合い、そこで語り合ったことを、週末一人でまとめ、また社員に話し続けました。

何をやるか、ではなく、何のために働くか、それが何よりも重要です。私は、本気で弊社の周りの人々、会社が成長発展し、生き生きと活躍する姿を夢見ています。会計は、それを実現するための「手段」に過ぎません。多くの人は、会計は数字を合わせて、正しい財務諸表を作ることだと思っています。確かにそれが仕事ですが、数字を合わせるために会計をするのではなく、お客様がどのような状態にあるのか、どこに無駄があるのか、何をしたいのか、どうすれば成長出来るのか、それを常に考え続けること、その志こそが何よりも大切だと思っています。私が下積み時代に味わった苦しさは、先が見えない、夢が無い閉塞感からくる苦しさでした。だからこそ、私は社員に自分の夢を語り続けます。本気で人を、会社を強くし、全ての人が生き生きと成長する環境、それを実現したいと思っているからです。

このコロナ禍の中、弊社のお客様にも、売上が激減しただけでなく、ついには不本意ながら会社を手放さなければならなくなった方々もおられます。業績の悪化で本当に困っておられる経営者の方々も、リストラをされるかも知れないと不安を感じる社員の方々もおられるかと思います。本当につらく、苦しい状況の中におられる時、大事な会社を失ってもうダメだと思った時こそ、もう一度、自分がどうして働いてきたのか、本当はどんな会社、職場を作るのが夢なのか、思い出して欲しいのです。私も何度も何度も、挫折を繰り返しながら会社を経営してきました。もうダメだと思った時も何度もあります。しかしそれでも、社員、お客様のために努力を続けました。夢さえあれば、自分ひとり以上の能力を発揮できることができます。全てを失ってゼロになっても、夢さえあれば、もう一度やり直せます。

私の夢は、「人と会社を強くする」ことです。その夢を全社員と共有し、お互いの能力を高めあいながら、お客様の成長に貢献したいと思っています。全社員がその夢を本気で信じることができるまで、何回でも、諦めずに語り続け、この会社を社員が誇りに思える会社にしていこうと思っています。その私の信念から、「夢と共に進む - Grow with Your Dreams」を弊社の座標軸に据えています。

2020年10月13日火曜日

与えられた環境の中で最大のパフォーマンスを発揮する - Deliver the best possible performance in the given circumstance

前回のコラムを書いた後、ある方が松下幸之助さんの話をされました。ご存じの方も多いと思いますが、幸之助さんは、実家が破産し、10歳から丁稚奉公を始めたため、小学校すら卒業出来なかったそうです。大阪の船場で、向こう三軒両隣はみな商売人。幼い幸之助さんの朝の日課は、早起きをして、船場の向こう三軒両隣の庭先を掃除をし、水を撒くことだったそうです。すると、隣のうちも早く起きて来て、こちらの店の前を掃除してくれる。幸之助さんは、それに負けないようにと、さらに早く起きて庭先を掃除するようになる。すると、後から起きて来た両隣の奉公人は、「いつもありがとう」と礼を言ってくれる。そのようなことを満十歳の時から5年間続け、庭先の掃除という地味な作業を、両隣までやってあげて感謝される、そんな所から、商売のコツをつかんだ、とのことです。

自分を振り返ると、私は20代から30代の前半までは、明確なキャリアビジョンはありませんでした。と言うか、何度も何度も、会計士を辞めようとさえ思っていました。スタッフには、「僕は人生で、100回は会計士を辞めようと思ったことがある。」と話しています。地味で単調、法律や基準にガチガチに縛られて身動きの取れない仕事=会計、と思い込んでいました。それだったら、そこそこの仕事をして、後は趣味に時間を費やそう、と思い、そこまで仕事に打ち込まず、趣味のスポーツに大きな時間を使った時期がありました。それはそれで、一つの生き方だと思うのですが、自分の能力を100%発揮していないことを、どこかで自覚しながら生きていました。自覚はしていましたが、仕事の意義すら、分かっていなかったのです。そんな時、一人の素晴らしい上司に巡り合いました。私が入社3年目の時だったと思います。私に仕事の基本を教えてくれただけでは無く、仕事の意義、人生の意義についても良く話して頂きました。米国会計事務所の、あまりにも数字とパフォーマンスでがんじがらめにする環境に疑念を抱き、「お客様が、自分の会社を会計を通じて分かるようになるお手伝いをせなあかんで。」とか、「上司は部下が立派な仕事をするために、頑張るものやろ。」とか、技術論だけでなく、人の役に立つとはどういうことなのか、ということを教えてくれました。彼とは良くお仕事を一緒にさせて頂いたのですが、何しろ、私もまだ入社3年~5年程度のことです。技術的にも、人間的にも、非常に未熟でしたが、彼の仕事の時には、少なくとも誠実に仕事をしました。真面目に誠実に仕事をした後は、例え夜遅くなった時でも、どこかスッキリとした気分で家路につくことが出来ました。そしてそういう時には良い評価をもらうことが出来て、さらに嬉しかったものです。それが、キャリアのどこにつながるとか、将来どうなるとか、分かっていませんでしたが、私の仕事でお客様や先輩に迷惑を掛けることは無いようにしなければ、という責任感だけは持っていました。きっと先輩は、「高野くんは、まだまだ未熟だけど、教えてあげれば、誠実に応えてくれる奴だ。」くらいには思ってくれていたのでは無いかと思います。その後、私はシアトルに引っ越し、先輩は日本へ帰任しましたが、毎年、折に触れ連絡を取らせて頂いていました。

3年ほど前、弊社の売上が大きく下がることが確定していました。大手のお客様が米国を撤退されて、そのお仕事が無くなってしまったのです。これは困ったことだ…と悩んでいたのですが、そんな時に助け船を出してくれたのが、実はその先輩でした。起業をしてから10年、先輩と最後に働いてから、13年経った頃、何の因果か、その先輩もまた、ロサンゼルスに赴任されたのです。そして、私が困っていた時に、立派なお客様の経営管理のお仕事をご紹介頂き、そのお陰で、その年に赤字に陥るようなことにはなりませんでした。本当に奇跡的なタイミングで、私が困った時に限って、その方が帰って来られたのです。何しろ、最後に働いてから13年が経過していますから、私の今の実力を彼が知る由も無かったと思います。しかし、「高野くんであれば、きっと誠実に仕事をしてくれるに違いない。」と思ってくれたからこそ、大事なお客様をご紹介頂いたのでは無いでしょうか。

20代の頃、何時か先輩にお客様を紹介して頂くことになろうなど、考えたこともありませんでした。ただ、当時の自分の能力の中で、一生懸命に仕事をしました。当時、良い評価を得たとして、次の年の昇給の差は、2、3%程度だったと思います。その程度の差であれば、適当に仕事をしておいて、余暇を自分の好きに過ごす、という考え方もあったかも知れません。しかし、その時に私が自分の能力の最大限で仕事をしなければ、困った時に、先輩は助けの手を差し伸べてくれなかったことでしょう。一生懸命誠実に仕事をする、ということは、それだけの年月を超える価値があるのです。

幸之助さんにしても、同じことだったと思います。両隣の丁稚さんよりも早く起きて掃除をする、そこから世界の松下になるなど、考えたことも無かったでしょう。しかし、十代の子供が出来る、最高の仕事をすることで、周りに感謝され、それが次第に自分の成長へと結びついて行ったのです。私は、お恥ずかしながら、若い頃は手を抜いて仕事をしたことがたくさんあります。そして私の手抜きの仕事を見た方々は、きっと今も私に声をかけてくれないでしょう。10歳の頃から誠実に仕事をすることを怠らなかった幸之助さん、時折サボることのあった私。今も痛烈に反省する所ですが、手を抜いたことは、結局自分に返ってくるのです。そして、一生懸命仕事をした結果も、長い時を経れば、やはり何倍にもなって自分に返ってくるのです。この先輩との仕事の話は、今もスタッフに良く話します。それは、一年程度を見て、帳尻が合わないと不満を持つのではなく、例え将来のビジョンが見えないような状況でさえ、最高の仕事をするような人間であって欲しいからです。弊社の座標軸に、「与えられた環境の中で最大のパフォーマンスを発揮する – Deliver the best possible performance in the given circumstance」があります。これは、与えられた環境、与えられた能力の限り、仕事をすることが、お客様のためになり、会社のためになり、社会のためになり、まわりまわって最後に自分に返ってくる、それを若いスタッフに伝えたい、という思いがあるからです。

私は今は、人生で一番長い時間を働いています。しかし、人生で一番ストレスの少ない時期を過ごしています。それは、私が社員のために良い会社を作ろうと本気で思い、本気で働いているからです。経営に本気になるのが遅すぎましたが、しかし社員たちも、少しずつこの会社の良さを理解してくれるようになっている気がします。20代の頃に先輩が教えてくれた「上司は、部下のために頑張るものやろ。」を始めとして、正しい哲学に基づいて、社員たちが本当に働いて良かった、と思える会社を作るために努力をする、そこに迷いが無いからです。今思えば、私が独立をしたのも、そんな理想像を追いかけるのも、先輩の影響を大きく受けている気がします。本当に、立派な会社を作り、皆様に貢献するために、これからも努力していきます。どうぞよろしくお願いします。

2020年9月15日火曜日

基本を外さない - Stick to the Basics

 会計事務所においてIT 開発を推し進める私が言うと不思議に聞こえるかも知れませんが、私は「普通の仕事を当たり前にやる」ことこそが、プロフェッショナルとして一番大事なことだと思っています。それは、自分が「当たり前のことは詰まらない」と思い、手を抜き、自分の仕事を自分で詰まらなくしていた過去を猛烈に反省しているからです。

私は会計事務所の監査部門でキャリアをスタートさせました。正直、会計士の仕事とは何なのか、と言うことへの理解は低く、ただスーツを着てネクタイを締めて、アメリカで活躍するかっこいいビジネスマンになるんだ!と思っていました。マンハッタンの事務所にさっそうとスーツで出勤し、頭がキレてバリバリ仕事をこなし、時には飛行機で日本に出張、そんなビジネスマンを夢描いていました。

入社後、意気揚々と仕事に向かったのですが、待っていたのは、請求書を突き合せたり、在庫を点検しに行ったりと、いわゆる「下っ端の仕事」でした。引き出しから請求書を引っ張り出しては帳簿と見比べっこしたり…あれ?これって「かっこ良くない」…と思いながら仕事をしていました。毎日毎日、同じような下積みの仕事を続けました。ある会社での監査では、一人で50 個を超える銀行勘定を合わせました。会計に馴染みの無い方に分かりやすく説明すると、50 個の銀行通帳が正しいかどうか、ひたすら見て行くような、単調で、地味な作業の繰り返しです。こんなことのために、大学時代真面目に勉強して、難関を突破して就職したのかな…と不満に思いました。実際、私だけでは無く、多くの同僚や先輩方が同じような疑問を抱え、不満を口にしていました。

しかし、一見同じような作業を繰り返すにつれ、あることに気づきました。まったく同じであるべき作業内容なのですが、会社会社で、作業の流れ、資料のまとめ方などが違っているのです。銀行口座調整表というベーシックなものですら、要点を綺麗にまとめている会社、数字を取り合えず羅列している会社。誤字脱字の多い会社、色々ありました。同様に先輩方のフォーマットも見て行きました。すると、やはり優秀だと言われる先輩のものは、見事に各フォーマットが統一され、どの仕事を見ても、後輩にでもすぐに理解できる内容になっています。かたや、不平不満をしょっちゅうこぼしている先輩のものは、やっつけで、心ここにあらず、と言ったフォーマットになっていました。当たり前な「下っ端の仕事」ですら、優秀な人とそうで無い人が残したものは、明らかに違ったのです。

それから、繰り返し基礎資料を見て行くうちに、良い仕事の共通点は、「目的が明確にされ」「手段が明示され」「実務内容を残し」「結論をきちんとまとめてある」ことを悟りました。ごくごく当たり前のことかも知れません。しかし、その「当たり前」のことがなぜか結構な頻度で抜けているのです。そして、その「当たり前」さえ抑えていれば、エラーが起きる確率も、非常に低いことに気づきました。それに気づいてからは、一見単純に見える作業でも、その本質を見抜き、どう仕事をまとめるか、考えて仕事をするようになりました。考えて仕事をするようになると、仕事が楽しくなって行きました。やっている仕事の内容は変わりませんでした。ただ、その仕事の意義と目的を理解し、以前より少しでも良いものを、次の人が見て納得できる資料を作る努力をすることで、単調に見える作業でさえ、楽しくなっていったのです。そして、仕事が楽しくなると、段々と周りから認められるようになっていきました。

「突然注目される選手と言うのが毎年出てくるが、それは「突然」才能が開花した訳ではなく、実はその前に数年間の努力がある。」広島やメジャーリーグで活躍された、黒田博樹さんの言葉です。黒田さんは、「大事なのは、試合で見せる素晴らしいプレーでは無く、単調で、一見詰まらない基礎練習をどれだけ真剣にこなすことが出来るかなんだ。」と仰います。結局、陰で見えない基礎練習こそが、業界を問わず、何よりも大事なのです。

ビジネスで言えば、例えばiPhoneを作るような、革命的な仕事は誰にでも出来ることではありません、しかし、基本に忠実に、確実に仕事をこなす。これは誰にでも、努力によって可能になることです。私たちは、天才にはなれないかも知れませんが、自分の才能を最大限に引き出す努力を積むことは出来ます。

最後に懺悔しますが、私は仕事においても、過去に何度も失敗をしました。そして犯した失敗は、「基本を外した」時にだけ発生しました。お客様にご迷惑をお掛けし、平謝りをしたこともあります。何度も苦い経験をしたからこそ、基本に忠実であることの大切さを知っているのです。弊社にもまだ、基本を外すことの怖さを知らない社員たちもいると思います。だからこそ、弊社でも技術に関する座標軸で第一に来るのが、「Stick to the Basics - 基本を外さない」ことなのです。

社員の失敗の責任は、社長にあります。社長自ら、基本に忠実であることを心掛け、これからも実直に仕事をしていきたいと思います。これからも、どうぞよろしくお願いします。

2020年8月18日火曜日

挑戦を続けるということ

もう30年近くも前、やりたいことが何なのか分からない、でも若い力は有り余っている、そんな時に米国留学を決意しました。基本的に行きたい大学は決まっていたものの、ネットの無い時代、そもそもどうやれば留学出来るものだか分からず、実家から20㎞離れた紀伊国屋まで自転車で出向いて留学の本を買い、読んでみました。どうも、TOEFLという英語のテストは受けなければならないらしい、所が他の要綱がさっぱり分からない訳です。大学に直接電話もしてみましたが、担当者も色々根気強く説明してくれるものの、NHKラジオ英会話だけで培った私の英語力では十分に理解が出来ず、心底焦りました。とはいえこのまま日本でくすぶって良いものか、悩みに悩んだ結果、「現地に行って大学に直接掛け合う」と言う作戦を取ることにしました。そうと決まったら、まずは資金調達、ということで、高校三年から時間を見つけては土方に精を出して、少しばかりの現金をトラベラーズチェックに変えて、片道切符を手に飛行機に乗り込んだ訳です。今思えば片道切符を持っていること自体、非常に怪しい訳で、見事に空港のセキュリティチェックポイントで引っ掛かり、別室に連れて行かれました。しかし、ここで日本に送還される訳には行きません。私がアメリカの大学で勉強したいこと、どうやれば入学出来るのか分からないから、入学するために来たことを熱意を持って話しました。若いからこそですが、我ながら堂々としたもので、取調室にいることを怖いとも不安だとも思わず、心から話せばきっと通じるものだと思っていました。やや呆れたアメリカ人が日本語が話せる検査官を連れて来てくれて、その人に日本語で事情を説明し、彼が他の検査官たちに説明してくれて、皆さん何とか納得し、無事に"Prospective Student"と書いてあるビザスタンプをぽーん、とパスポートに押してくれて、私は無事空港を出ました。

私の米国生活は、そんな所から始まりました。知らないことだらけの中、持って来た自転車で50キロでも100キロでも、どこにでも行きました。お金が無くなると、一時帰国して友人の土建屋さんや、佐川さんなどでバイトさせてもらったりを繰り返したので、4年ではなく6年掛かりましたが、何とか行きたかったカリフォルニア大学リバーサイドを卒業することが出来ました。

高校時代まで、やり場の無いエネルギーを抱えていた反動だとも思いますが、どれだけ知らないことがあっても、何度失敗して笑われても、「今は出来んけど、俺は絶対に出来るようなる。」とひたすら挑戦を続けました。振り返って思うのですが、失敗した数だけは、知っている人の中で、ダントツで多い気がします。しかし、踏み込んで考えると、失敗した数だけ、乗り越えた山の数も多い気がします。

失敗をしない唯一の方法は、挑戦をしないことです。しかし、同時に、成功をしない唯一の方法は、挑戦をしないことです。経営者になって振り返ると、どれだけの失敗を重ねて来たか、そしてその失敗をどう自分の経験に変えて来たかで、人の成長は決まって来るのでは無いかと思います。何かを達成したい、と思った時に、失敗するかも知れない、という恐怖感に押されて何もやらなければ、そこには失敗という経験すら残りません。失敗という経験から、どうして失敗したかを考え、どうやれば次に成功するのか、何度も何度も考え抜く、この経験が無ければ、人は成長しないのです。そして、挑戦をやめた瞬間、失敗は失敗で終わるのです。

社会人になって経験が長くなり、仕事が当たり前に出来るようになってくると、若い頃失敗したことを忘れて、部下の失敗をすぐに責めたくなる心が出てきます。私自身、部下の失敗に不寛容であった時期が一定期間ありましたし、今もまだ、頭にくることもあります。しかし、まだ未熟な社員が失敗をするのは当たり前で、それをカバーするのが上司の仕事です。「このヤロー」と頭にくることもあるかと思いますが、上司の仕事は、「次は出来るようになれよ。」「これで伸びろよ。」とただ応援を続けることでは無いのかと思います。そして、私自身も、これからも常に挑戦を続ける人間でありたいと思っています。

2020年7月1日水曜日

だからこそ、企業の哲学が重要

前回、日本電産の永守会長の話を例に、これから成果報酬のあり方、時間単価の概念が大きく変わるだろうと言う旨、お話ししました。今回はそれを踏まえて、「だからこそ、企業の哲学が重要である」と言うことをお話出来ればと思います。

数値実績を積み上げた成果報酬のみで人を判断するようになると、極端に言えば人はお金のためにだけ働くことになります。生活を満たした後は、高級車、豪邸、クルーザー、飛行機…と際限のない欲望だけをドライブに仕事をすることになります。私までの世代は、牛肉が食卓に並んだから、「お父さんお仕事頑張ったね!」と喜ぶ世代でした。大学を卒業したら、とにもかくにも給料を稼ぎたいと思っていました。しかし、今の若い世代の方々は、ある程度モノが満ち足りた環境で育っています。ハングリー精神に欠ける、と言う前世代の方々からの指摘もありますが、逆に「何のために働くのか」を私たちの世代より、更に深く考えている所があるように感じます。

「何のために働くのか」「どうしてこの会社なのか」 この本質的な問いかけに迷いがあれば、どれだけの給料を貰っていたとしても、心が満たされないのでは無いでしょうか。私は、この時代だからこそ、会社のミッションとビジョンを明確にし、会社が何をしたいのか、どこに向かっているのか、明確に示す必要があると思うのです。そして、マネジメントは、自分自身が何のために働いているのか、定義する必要があります。私の場合は、まずは従業員が成長できる会社であること、そしてお客様の成長に貢献できる会社であることです。弊社のミッション、「人と、会社を強くする」、ビジョン、「世界一働きたい会計事務所をつくる」には、私の人生の意義が全て込められています。

西郷隆盛の言葉に、「命もいらず、名もいらず、官位も金もいらぬ人は、始末に困るものなり。この始末に困る人ならでは、艱難を共にして国家の大業は成し得られぬなり」と言う言葉があります。これだけの高い志を持っ高潔な人だったからこそ、西南戦争の際に会津藩から勇士がやってきたと言います。、本気で従業員のこと、お客様のことを思える経営者は強いです。かと言って、会社と言うものは、企業の存続と社員の努力に報いて良い生活をしてもらうために、収益性を高めなければなりません。哲学と実学、両方を兼ね備えて初めて素晴らしい企業となります。

色々な考え方があると思いますが、私にとって、私が弊社の経営者である意義は、「この会社に私より社員全員のことを考えて真剣に仕事に取り組んでいる人はいない」ことにあると思っています。自分自身の成功、名声、報酬よりも、社員全員が本当にこの会社で働いて良かった、そしてお客様がこの会社に仕事をお願いして良かった、と思ってくれることが、私にとって何より大事なことです。実際に、毎日それを真剣に考えて仕事をしています。

問題は、私に才能が薄く、中々思うように社員を成長させてあげられなかったり、お客さまを満足させられなかったりすることです。名経営者の話を聞いては、自分の才能の薄さに落胆することもありますが、私にできることは、せっかくこの会社に入ってくれた社員には、私の才能の限りは成長させるよう、考え続けること、そして彼らと一緒に、お客様が喜んでくれるサービスを提供し続けることです。振り返れば至らない所ばかりですが、ミッション・ビジョンの達成に向けて毎日真剣に仕事をしていきますので、今後とも、どうぞよろしくお願いします。

2020年5月14日木曜日

日本電産 永森会長のインタビューから受けた衝撃

先週、日本電産永守会長のインタビューを見て衝撃を受けました。永守会長と言うと、「すぐやる、必ずやる、出来るまでやる」「死力を尽くしたか」など、仕事に対しての情熱を燃やし続ける、日本を代表する経営者の一人です。過去には「一人の天才よりも、100人の協調できる凡才が会社を担っている」と言う言葉を残されたように、自分の社員を家族のように守る、古き良き経営者でもありました。その永守さんが、インタビューでこのように話されていました。「生産効率というか、仕事の効率が客観的にみても半分以下。場合によっては3分の1ぐらいしか実際の仕事はできていない所ある。」しかし、「中には出社していた時以上の成果を出すものが現れている。通勤時間が減った分、逆にその時間を使ってお客様にアプローチし、売上を上げている。」「これは徹底的に意識を変えていただかないと、テレワークは成功しない。あなた自身のことはあなた自身が、自己管理をしてくださいと。自己管理を。ところがまあ、見てもらえば分かりますけど日本の場合は自己管理できる人なんて少ないんですよ。というのは、欧米は、何かあったらクビになるんですよ。自分のノルマが達成できなかったら。」そして、日本電産では、人事評価制度を全体主義から、個人の成果主義へ、大きく舵を切ったそうです。在宅勤務を余儀なくされた結果、その場で仕事の状況を見る訳にもいきませんから、いわゆる「ガンバリ」を評価されにくくなります。逆に、どれだけの時間を使ったかでなく、仕事の結果こそが、会社の価値を生み出している、という考え方にシフトして来ています。

成果主義の考え方は特に欧米には古くからあります。しかし、この発言をしたのが永守さんであるからこそ、私は衝撃を受けましたし、日本電産社員全員も危機感を持って聞かれているのでは無いかと思います。弊所でも、評価基準の見直しの検討を開始しました。

プロアクティブ、プロダクティブ、プロフェッショナル。時間価値の概念は今、大きく変わりつつあります。

2020年4月13日月曜日

会社をつなぐこと

新型コロナウイルスの感染拡大による影響は、経済的なものもそうですが、私たちの暮らし方を変えてきています。経済的な打撃は、直近ではリーマンショックもありましたし、バブルもくぐって来て、ある程度どのようなことが起きるのか、想定は出来ます。しかし今回は、飲食業界、旅行業界など、「努力」をしたくても出来ない業界が存在する、という意味で、今までに見たことが無い形の不景気に陥っています。前回までは、Paycheck Protection ProgramやEmergency Injury Disaster Loan など、法人向けの手当ての拡充を主に扱って来ましたが、今回は従業員のための、失業保険を取り上げ、レイオフ自体を戦略的に行うことを想定して記事を書いています。これで、レイオフされた多くの従業員が、つなぎの期間、安心して過ごすことが出来るのでは無いでしょうか。


もちろん、ただ休むのではなく、その間に個人で取り組んでおく課題を、各自としっかり話し合い、帰った時には新しいスキルを身につけているくらいになってくれていると、本当に素晴らしいと思います。

2020年3月27日金曜日

感染に備える

 この記事を書いている時点で、米国での新型コロナウイルス感染者数は12万人を超えました。現在の所は私の身近な方々で感染者は出ていませんが、確実に我々の近くに迫ってきていることを感じます。現在所員が健康で仕事を出来ていること、そして仕事で忙しくさせて頂いているという今まで当たり前のように感じていた現実が、どれだけ有難いことか、心から理解できるようになりました。お客様、そして関係者各位、本当にありがとうございます。


感染をしないように、最善の対策を取ることはもちろん重要ですが、一方で感染をした場合について、考えておく段階に入って来ているように感じます。病院、食料、その他、罹ってしまってからではなく、罹る前に準備しておくべきことはあります。


感染が疑われる症状が出た場合に連絡する主治医の電話番号を控えておく。

息ができない等、緊急医療を要する場合のEmergency Roomの情報を持っておく。

感染した場合、自己隔離できる場所を準備しておく。

自己隔離中の食料品・日用品を準備しておく。

ネット注文できる食料品サイトの選定・登録を済ませておく。

CDCが推奨する正しい対応を勉強しておく。 https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/if-you-are-sick/steps-when-sick.html


また、ご自身でなく、社員の方が感染してしまう可能性もあります。日本からの駐在の方に限らず、現地社員でも親類が身近におられないこともあるかと思います。そのような社員の方には発症後、健康な他の社員の方が食料品や生活必需品を届けてあげるような、仕組みを作っておいてあげては如何でしょうか?


従業員を家族のように扱う、と言うのは日系の会社の美徳ですが、キリスト教でも "Love your neighbor as you love yourself"と言うように、周りの人々を大事に扱うようにと言う考えは浸透しています。本当に困った時こそ、「お互い様」で、社員を助ける会社でありたいものです。


2020年3月16日月曜日

不況を乗り切る5つの対策

日本を代表する経営者の一人である稲盛和夫氏は、かつて不況を乗り越えるために、5つの対策を取った、と話されたことがあります。私も以前読んだ本を振り返り、なるほど、と思ったので共有させて頂きます。

1. 全員で営業する

  • まずは会社として売上を保つことが必要になります。他の部署で余っている人材がいれば、営業に回し、売上を伸ばすサポートをして頂くことも考えるべきかも知れません。製造が営業の苦労を体験することによって、互いの気持ちを分かりあい、感謝の気持ちを持つようになったという話もあります。

2. 新製品開発に全力を尽くす

  • 仕事が減るからこそ、普段できない開発に時間をかけることが出来る、と言う発想も出来ます。不況の間に開発に取り組み、乗り越えた時に新製品を販売することが可能になります。

3. 原価を徹底的に引き下げる

  • 受注単価の下落以上に、原価を下げる努力が必要になります。全社体制で経費を下げる努力を習慣化し、体質改善を図れれば、景気が上向いた時に、一気に高収益企業となることが出来ます。

4. 高い生産性を維持する

  • 製造や開発を、暇にさせると、不安に駆られ、結果不満に変わることがあります。売上が2/3になったなら、製造も2/3に下げ、一人当たりの生産性を下げてはいけません。余った製造の社員には営業に行ってもらったり、工場・オフィスの美化など、出来ることをどんどんやってもらい、暇にさせないようにし、会社、社会へ貢献している意識を持ってもらいます。上記のように、製造現場の社員が営業の苦労を知ることで、お互いの絆が強くなることもあります。

5. 良好な人間関係を築く

  • 不況で厳しい時こそ、本当に社員と苦楽を共に出来る人間関係が出来ているのかが問われます。経営者として、労使一体となって不況を乗り越える強い意志と努力は必要になります。普段からの経営者としての努力が問われますが、同時に本当に苦労を共に出来る社員を見極める時でもあります。